2000年5月31日、ニューオータニ美術館で開催されている「ジョン・グールド展」で講演を行いました。
講演は「ギャラリートーク」の名の通り美術館の展示フロアで開かれましたが、アラマタもお客さんも約1時間30分の講演時間中立ちっぱなしという過酷な条件で、かなりしんどかった模様です。肝心の内容ですが、ハチドリをブラジルに採りに行った話から始まって、スクリーンでの図譜の解説やグールド工房の話など盛りだくさんでした。
- イギリス旅行中に偶然立ち寄った美術展でグールドの図譜に魅せられた。
- ニューオータニ美術館に展示されているもので、本になっているのは玉川大学の所蔵品だが、一点ものの絵で「個人蔵」とあるのはアラマタ所有である。
- グールドはリトグラフという石版画の手法を用いて鳥類図鑑を作った。これは磨いた石版にクレヨンのようなもので絵を描き、その上から油を塗り、紙に絵を転写するというものである。この技法はふわっとした質感を出すのに向いており、風景や動物を描くのに適している。
- リトグラフは、これまでの技法のように版を「彫る」ことがないので、専門の職人を必要としない。画家が石版に自分で書いたものがそのまま印刷される仕組みである。これは画期的な発明だったが、これまで出版界をささえていた職人組合の強力な反発で、長い間普及することがなかった。
- ヨーロッパでは同業者組合のようなものが力を持っていて、画期的な発明が握りつぶされるということがよくあった。メリヤス編み機を最初に作ったのは僧侶で、自分の妻の仕事を楽にしてやろうと考え出したものだが、これが世に知れると編み物職人の猛反発にあい、貴重な編み機は壊されてしまったという。
- リトグラフで印刷しているのは、絵の主線にあたる部分で、色は後から手作業で塗っているらしい。
- グールドは図鑑の絵に絵画的手法を持ち込んだ。メインになる鳥を中景に置き、背景に森などの自然環境を描き、鳥の手前に全景として木や草などを配置することによって絵に奥行きを出し、単なる研究用の図譜ではなく鑑賞にたえるものに仕立て上げた。
- グールドの鳥類図鑑とはいうが、グールドが実際にしたのはもとになるスケッチと、プロデュース作業だったらしい。彼が作った元絵を版画に起こしたのは、初期のころはグールドの奥さんである。
- 当時の出版物は、作った人が売るところまで責任を持つシステムであった。図鑑のような高価なものは、まず見本を作り、買ってくれそうな人(貴族や王族)に見せに行って注文を取ってから制作に入る。
- 予約販売制で、しかも色は後から手作業で塗るシステムなので、鳥だけに色を塗る、背景にも色を塗るなどのオプション価格があったらしい。玉川大学所蔵の絵と、アリャマタ個人蔵の絵を比べてみると、同じものなのに片方では背景がモノクロで、片方では全体に色がついていたりする。
- グールドはもともと剥製師であった。初期の頃は探検家によって持ち込まれた標本をもとに図譜を作成していた。しかし、ニューギニアやオーストラリアの鳥類をまとめはじめたとき、剥製を見ただけでは生態を想像できないことに気が付いて、自らオーストラリアへ出向いて作業を続けた。
- オーストラリア滞在中に奥さんが出産し、産後の肥立ちが悪かったのか病死してしまう。グールドは非常に落胆したが、それでも出版作業をやめなかった。オーストリア滞在中に発見したもっとも美しい鳥の学名には奥さんの名前をつけた。19世紀につけられた学名には、発見者の妻や愛人の名前が多く見られる。
- グールドの工房には奥さん以外にもスタッフがいたが、誰が手がけた作品もジョン・グールド(または奥さんのエリザベス・グールド)の作として出版された。それに腹をたてたのか、スタッフのひとりであるエドワード・レアは、自分がリトグラフに起こした作品に自分の署名をこっそり書き込んでいる。
- 1851年、ロンドンで万国博覧会が開催された。グールドは自分の作品を世に知らしめる良い機会と考えた。しかし、同博覧会では見に来た人からお金をとってはならないという規則があったため、彼は会場のすぐ近くにある動物園を借りて自分の作品を展示した。会場のそばにあるため人が沢山くるうえに、会場外なのでお客から見学料をとることができた。同博覧会で金銭的にも成功したのはグールドだけかもしれない。
- グールドは南米のハチドリに強く心ひかれたようで、ハチドリの羽の金属光沢を、どうにかして絵で再現できないかと考えた。そこで彼がとった手法は、光沢を出したい部分に金属箔を貼り、その上にニスを塗り、さらに色を塗るというものである。実物が展示されているので講演の後に確認してほしい。
- 南米ではハチドリがあたりまえのようにそこいらにいるので、昼間つかまえようとして失敗した。その話を知人にすると、ハチドリなんか簡単に捕まえられると言われた。昼間ではなく、早朝に行ってみろ、やつらは気温が下がると動けなくなるので、地べたにごろごろ転がっているぞ、というのだ。次の日早く、アラマタがでかけてゆくと、果たしてハチドリが地べたに転がっているではないか。こうしてアラアタは自分の手の中にハチドリをおさめることに成功した。
- グールドはかなりエネルッギッシュな人物で一年間に鳥類図鑑を何冊も手がけたが、それが出来たのは奥さんの献身的な働きがあったからなのだそうで、「何時の時代も、博物学者は奥さんに支えられている」そう。
などと述べました。
講演時間はあっと言う間で、アラマタも話足りなさそうだったようです。
その後サイン会も開かれましたが、展示品目録(3000円)を買えばサインをもらえるという、ナカナカ商魂たくましい仕組み。ただし、カタログは凝った作りで、解説の本と図譜のコピー16枚(一枚づつのバラ)がセットになっているもので、図譜好きにはとっても有り難い代物だったようです。
※ミル様、ちんじゅう様(@「珍獣の館」)に全面的なご協力を頂きました。ありがとうございました!!