産経新聞2001年6月18日東京版朝刊11頁にアラマタの書評が掲載されました。対象本は「日本の海大百科」 (倉沢栄一著)でした。

「新発見も多い“海の社会派写真集”」
 大百科と銘うたれた本には、どこかに強引なところがあって、取り扱うテーマを力ずくで組み伏せてしまう腕っぷしを必要とする。やわな方針では、とても勝負にならない。まして日本の海を大百科するんだと豪語するからには、鬼神の力わざを必要とする。
 それが、『日本の海大百科』と題する大それたビジュアルブックを手にしたときの危ない予感だった。だが予感は良い方に裏切られた。ひとことでいえば、写真と文章を両方とも手がけた倉沢栄一は日本の海を天上から眺めている。つまり、海を越えたところから著された海の本なのだ。
 有名ダイバーの写真を見るときにさえ感じる、「海に呑まれているよなァ」という不満。これはたぶん、写真家がスクーバ装備を身につけて海に潜り、海中に閉じこめられてしまうことに由来するのだ。たしかに感動はあるが、決して海の掌から脱けでられない屈服感があった。
 しかし倉沢は、地球儀や流氷や漁業にはじまり、海に落ちたゴミから渚で遊ぶ子らまでを並べた。人間も魚も鳥も等しく海に養われ、海にもてあそばれ、ときに海を傷つけている。ドラマやファンタジーというより、海の社会派写真に近い。しかし、だからこそ日本の海の裏面や田舎びたところも撮れたと思う。
 とにかく発見が多い。対馬の海のエダミドリイシの大群落には気絶しそうになったし、緑の藻場に真赤なウミトサカが伸びるシュールでミスマッチな光景にびっくりした。
 奄美大島近海の生物相が沖縄よりもパラオに似ているという指摘もその通りだと思う。キヌバリというハゼについて、太平洋側でも北の方では日本海タイプの文様をもつという証拠写真もすごい。
 日本の海は、実は世界でも稀有なモザイク状の、掟破りの自然環境をつくりあげている。大百科の豪腕をもってはじめて見えた「日本の海」の奇怪さであった。


※玉兎様、ありがとうございました!!