ニュースレターの内容です(荒俣部分)

現在閲覧できませんので

http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsps/letter/pdffile/NL4.pdf

より引用させていただきます。 -2014.08.25- 

 

特別講演 荒俣宏 「分類学の先駆者は偉かった・・・が、しかし」

 実はこの講演があるので遠く三田から参加したのだが、来た甲斐のある非常に充実し
た内容であった。1時間に渡る話をかいつまんで説明する。


 妖怪、風水、陰陽道について講演すると、聞きにきている人の様子が最近ずいぶんと
変化している。最前列には華やかな女性達が陣取り、次の数列を子供達が占め、以前か
らきていた「オタク」の人たちはその後ろにいるのである。大衆性というのはこんなと
ころに端的に現れるようだ。150 年ほど前、英仏において一般人の間にnatural history
が大流行した時期がある。その原因は、
1)natural history を楽しむコストが安くなった。特にガラスの物品税が下がり温
室や水槽が庶民にとって身近になり、水中生物飼育が大ブームとなった。また移動
にともなう経費も格段に安くなった。
2)なにか新しい、そして心をワクワクさせるものがそこにあると感じさせられた。
熱気球に争うようにして乗ったのが女性であったように、このワクワクさせるもの
にもっとも敏感なのが女性である。
女性がブームを引っ張るのは、いつの世でも同じらしい。フランスの博物学者である
ビュフォンは、自然誌の記述にロマンチックな小説の文体を持ち込み、フルカラーの図
The Japanese Society for Plant Systematics No.4
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版を提供するなどして、「平和でハッピーな博物学」を提唱し、これが世間の女性を博物
学に殺到させることとなった。もちろん度を過ごせばいろんな弊害もでてくることはた
しかなのだが(水中生物飼育が大ブームとなったときは、英国海岸のおもだった採集地
の多くは生き物がいなくなってしまったそうです)、分類学が心を浮き立たせる何かを提
供することができ、そして講演会を開いたときに最前列に一般の女性が座るようになれ
ば、分類学も大衆性と人気を得たことになるだろう。
 現代の写真家、TV番組撮影班は、世界のあらゆる場所にでかけて写真をとり、番組を
つくっている。その行動範囲はとうてい分類学者の及ぶところではない。では、分類学
者が彼らにどのような貢献をしているのかといえば、「名前の問い合わせ」に回答するか
できあがった番組の監修をするくらいでしかない。これはもったいない状況ではないか。
もっと積極的に関わって、今後どんな協同を働きかけられるのかを考えてみてはどうだ
ろうか。(ここでチョコエッグのフィギュアについて言及されたのですが、うまくまとめ
られないので省略します)。硬直化した、ネガティブな権威を振りかざしているようでは
良くない。たとえば、今は理想的な研究環境といえる英国のキュー植物園でさえ、100年
ほど前には(当時の園長が自分が興味のない分野への予算振分けをしぶったりしたため
に)キュー植物園があるがために植物学が発展しないのだとまで批判されたことがあっ
た。
 同定のサービスについては、もっと利用しやすい環境を整えるべきだ。たとえば、イ
ンターネット上のホームページがこれほど発展したのは、ヤフーなどのポータルサイト
(いろんな検索ができる入り口)があるからであり、同定に関してもここにさえ行けば適
当なサイトが検索できるというものを設ければ、利用者にとって非常に便利であろう。
 分類学は理科系のように見えるが、実は学名・和名など命名に関してはきわめて文科
系的学問である。一般の利用者にとって学名・和名がきわめて取っつきにくく理解しに
くい場合がある(アナグラムなどの内輪受けの奇妙な学名や、生物のランクと語の上位
下位関係が逆転している和名、例えば属の和名と種の和名が同じである場合はよくあり
ますね)。特に学名は語の選択に体系化がみられない。こういったことは学問を大衆化す
るうえでおおきな障害となる。
 最後に、分類学を利用する立場からお願いを3つ。
 1)みんな仲良く、競って、分かち合おう
   これには、明治にはいっても長く繁栄した尾張博物学が良い手本となるだろう。
 2)より大きな世界とつながろう
   海外の研究者と協同するのは当然として、異分野にも一般市民やアマチュアの世
界にもつながってゆくことが大切。
 3)古いものを大切に。
   標本、文献、建物、とりわけ引退あるいは亡くなった研究者のノート類・コレク
ションがあまりに粗末に扱われている。その管理運用の方策を探るべし。ボラン
ティアの活用も積極的に考えてはどうか。


Feb. 2002 日本植物分類学会ニュースレター