世界妖怪協会

日本妖怪界の首領・水木しげる御大が会長をつとめる。
「初めに水木翁があった。それを荒俣さんがそそのかした。そして京極さんが担ぎ出され」(会報となる「季刊 怪 第零号」編集後記より)てできた会である。
要するに、妖怪(=水木翁?)好きが集まって、ざっくばらんに語り合おう、という会なんである。
年1回の「世界妖怪会議」の開催、機関誌「怪」の発刊など、精力的(?)な活動を行っている。

「世界妖怪協会」発足にあったって会長が寄せた文を以下に引用。
(「季刊 怪」第零号 角川書店 ISBN4-04-883496-7より)。




「世界妖怪協会」とは何ぞや

水木しげる


 もともと、「世界妖怪協会」なんてものは誰のアタマにもなかった。
 しかし、突然境港市の‘天才企画者’即ち‘水木しげるロード’を企画した‘怪人’から‘世界妖怪会議’を開くという通知を受けたが、それだけで何の連絡もないから、おそらくすべてをまかされてしまうのであろうと不吉な予感がした。
 しかし世界は思ったよりも広く、世界から人を呼ぶということになると、飛行機代もバカにならない。
 予算をきくと、一人の人間がヨーロッパに行く位しかない。しかし名前だけは‘世界’となっているから、なんとか世界に‘関連づけ’ないといかんと思ったが、妙案もないままに、というより〆切りにおわれてわすれかけてしたりするうちに、なんとなく「世界妖怪協会」を作ったわけだが、規定もなにもないし、私は日々‘妖怪’におわれているから落ち着いて考えられない。あれよあれよといううちに‘第一回世界妖怪会議’の期日がせまってしまった。 協会の機関誌を出す案は始めからあったが「仕事がふえる」ということで、あまり気は進まなかった(年をとるとラクをしたい)。
 仕方なく、みんな集めて協議した。なにを協議したのかはわすれてしまったが、要するに「仕事がふえる」という事で、なにもしない方が良いということになったが、‘協会’と名がついている以上やらねばならんということになり、最低のエネルギーを使い、機関誌を季刊で出すことになった。
 しかし一度本を出す以上、‘廃刊’になるなら始めからやらない方が良いという考えだから、角川で出す、ということが決まると同時に私の肩がなんとなく重くなった感じだ。
 まァ、いろいろなことがあったが、すべての規定とか規則をあと廻しにしてしまったため、これからぼちぼち作るという奇妙な‘協会’になってしまった。
 ただ、長年考えていた、文化人類学者(文化人類学者とは限らないが)の妖怪とか霊を研究している人への奨励金を私個人で出す、それは世界妖怪協会の一つの目的ということにもなる。
 しかし、景気のいい時は百万でもだせるが、景気の悪いこともあるので五十万にした。毎号一人(或は二人)に進呈します。
 第一回は今号に「パプア・ニューギニア、セピック丘陵の妖怪たち」が掲載された広島大学の助教授の山田陽一さんです。というふうに広い意味での‘霊研究’を少しでも考える気持ちはあります。
 ま、とにかく、「世界妖怪協会」はぼちぼち内容が固まってゆくでしょう。
 私はもう七十五歳ですので、荒俣さんとか京極さんが大いに活躍なさる
のではないかと期待し、かつ安心しております。
 また、いろいろな‘学者’の方々にも大いに期待しております。
 恥文ではございますが、‘教会’ならぬ‘協会’の説明を終わります。