帝都物語 まとめ -2014.07.30 -




言うまでもなく荒俣宏の最初にして最大のヒット小説です。
が、「新〜」やら「新装版」やら「からくりナントカ」やらいろいろあって
「読んでみたいけど・・・何から読めばいいの?」
って方も多いと思います。
「連載開始から30周年」ですし、流れをまとめておきます。

 



*******<第1期 始動篇>********

「帝都物語」はもともと雑誌「月刊 小説王」(角川書店)に連載された荒俣宏の処女小説です。
1983年10月号(創刊号)から1984年10月号(13号)まで計13回掲載されました。
タイトルは「神霊小説 帝都物語」でした。

こんな本



ちなみに編集長だった森永博志は荒俣宏に小説を書かせようと思ったきっかけを

「荒俣さんが小説書く前ね、工作舎っていうマニアックな出版社でいろんな本を
 だしてたんですよ。それで荒俣さんが持ってる博識、そういうものを一冊の小説の
 なかにぶち込んだらすごい小説がかけるんじゃないかと思って荒俣さんに
 小説書きませんかって言ったらば荒俣さんがその時、書きたいものがある、と。
  それが帝都物語だったんだけれども」

と語っています。

また荒俣宏は

「Q 帝都物語の発想はどこから?」の問いに

 「今でも恐れられているのが将門さんでありました。まわりの企業が将門の首塚に
 最大の敬意をいまだに払っているというのを聞いて、うん、これだと。
  現実を超えファンタジーを超えるファンタジーが今現実にあるんだ、という事を
 知りまして」

と語っております。
(いずれもフジテレビ「オデッサの階段」<2013.02>より)
雑誌インタビューには以下の記述もあります。

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雑誌「太陽」(1991/11)の立花隆氏のインタビュー

 基本的にぼくはオカルティズムをやっていましたので、東京の怨霊である平将門には特に
関心を持っていたことと、江戸城のつくり方が風水でできているとある本で知って、この
二つを結べば面白い話が書けるだろうと思っていたんです。
 そんなとき、『明治の東京計画』を書かれた藤森照信さんから明治期以降の東京の町の
つくり方の話を伺う機会を得て、ちょうど東京論ブームが起こりつつありましたし
テーマを明治以降の東京に置いてやってみたのが『帝都物語』です。
(中略)
(著書「愛情生活・白樺記」にからめ)ぼくは「新しき村」みたいなユートピアの発想って
大好きだたんですよ。
『帝都物語』も元々は坂東ユートピア構想(注:ママ)といようなエッセイを書こうと
思ってたくらいです。

(注:「坂東」ではなく「関東」のミスだと思われる)

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雑誌「月刊 PHPほんとうの時代」(2007/09)インタビュー  

 当時、平凡社では百科事典のほかにも文化史や思想史、科学史を含めたオカルティックな異端思想の
歴史をビジュアルで展開する「イメージの博物誌」という翻訳シリーズをやっていて、『地霊』という本を
翻訳させてもらいました。これ、今から考えると風水の本だったんですね。
 大地にはゲニウスロキ(地霊)が棲んでいるとする思想は世界中の国に共通のもので、明治維新の時、
江戸に入った天皇が関東最大の地霊である平将門の首塚にお参りしたという話は有名です。
地霊は祟れば恐ろしい存在だけど、味方につければこれ以上頼もしいものはないわけです。
 この『地霊』の仕事がきっかけとなって、それまで中学生の頃からインプットしてきたネタを
ダウンロードしたのが『帝都物語』で、それが世の中に受け入れられて、映画にもなったわけです。
先達から世の栄達をあきらめて地道にやりなさいと言われていたのが、
それとは裏腹に風水や陰陽道ブームになってしまったんですね(笑)。
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当時、荒俣宏36歳。





こういう頃。

なお、紀田順一郎先生と荒俣が実質的な編集者を務めていた雑誌「幻想と怪奇」<1974年6月号>
の編集後記に以下のような記述があります。

☆創作の投稿が多くなった。丁寧に拝見しているが、完成度は二の次でよいから、
スケールの大きなものを期待している。たとえば密教を素材とした日本的”ゴシック”霊界の
語りを職とする巫祝(ふしゅく)に材をとったもの、民間信仰や伝説、特殊家系、邪教、妖婚に
関するものなどがそろそろ出てもよいのではないか。海外の傑作はみなその国の風土や伝統に
深く根ざしたものをもっている。怪奇幻想の分野は、小器用なエンタテインメント的発想だけでは
展開が見られないように思う。
(紀田・荒俣・鏡)

連名になっており書き手はわかりませんが、この書き手が荒俣であれば、発表の10年ほど前から
構想していたアイデアであったことになります。
また紀田先生か鏡先生であったなら、怪奇幻想ファンタジーの先駆者たちがもやもやと抱えていた
課題を昇華させた作品とも言えるのではないでしょうか。
 
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「月刊 小説王」が15号で休刊したことで発表の場を失いますが、
以降は新書判レーベル「カドカワノベルズ」の書き下ろしで刊行されることになります。
これが大ブームをもたらした「帝都物語」のオリジナル版です。 


帝都物語1 神霊篇  1985.01.25
帝都物語2 魔都(バビロン)篇  1985.04.25
帝都物語3 大震災(カタストロフ)篇1986.01.25 (ここから書下ろしとなる)
帝都物語4 龍動篇  1986.02.25
帝都物語5 魔王篇  1986.03.25
帝都物語6 不死鳥篇  1986.07.25 
帝都物語7 百鬼夜行篇  1986.10.25
帝都物語8 未来宮篇  1987.02.25
帝都物語9 喪神篇  1987.05.25 
帝都物語10 復活篇   1987.07.25
の10冊が刊行されました。
         
こんな本でした
   

丸尾末広先生のイラストがすばらしい

ここで一旦完結です。

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が、この間、「『帝都物語』、なんだかすげーぞ」と話題になり、87年には第8回日本SF大賞を受賞、
映画化の話も着々と進み、一大ブームとなります。


なお映画版「帝都物語」は、原作の「神霊篇」から「龍動篇」までを映画化したもので、
刊行終了半年後の1988年(昭和63年)1月30日に公開されました。 



嶋田久作氏が果たした役割は大きい

 

本は映画公開に先立つかたちで文庫化され、大々的に販売されました。
帝都物語(1)神霊篇 角川文庫 角川書店 1987.09.25  
帝都物語(2)魔都篇 角川文庫 角川書店 1987.10.10    
帝都物語(3)大震災篇 角川文庫 角川書店 1987.10.10     
帝都物語(4)龍道篇 角川文庫 角川書店 1987.10.25     
帝都物語(5)魔王篇 角川文庫 角川書店 1987.10.25    
帝都物語(6)不死鳥篇 角川文庫 角川書店 1987.11.10    
帝都物語(7)百鬼夜行篇 角川文庫 角川書店 1987.11.10    
帝都物語(8)未来宮篇 角川文庫 角川書店 1987.11.10    
帝都物語(9)喪神篇 角川文庫 角川書店 1987.11.10    
帝都物語(10)復活篇 角川文庫 角川書店 1987.11.10  


********<第2期 混迷篇>****************

このブームに乗り、時系列を遡って11、12が新たに書かれます。
映画公開にあわせて文庫本で発刊されています。

帝都物語11 戦争(ウォーズ)篇 <角川文庫> 1988.01.10  
帝都物語12 大東亜篇  <角川文庫> 1989.07.25 
の2冊です。

こんな本
 


これで、「文庫版」全12冊が出そろいます。


「文庫版」はこんなカバーでした
  

表紙は1〜3が天野嘉孝氏のイラスト、残りは映画のシーンを使った写真でした。(初版)

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また1989年12月には「帝都物語  限定愛蔵版」も6巻函入りで出版されています。

・著者”永久幸福”検印入り
・著者直筆サイン入り
・通しナンバー入り
・本体価格 36,893円

というまさに「愛蔵版」です。

 





なお、この愛蔵版は2冊を合冊してあり
第壱番  神霊篇/魔都篇
第弐番  大震災篇/龍動篇
第参番  魔王篇/不死鳥篇
第四番  百鬼夜行篇/未来宮篇
第伍番  喪神篇/復活篇
第六番  戦争篇/大東亜篇 
という並びです。
価格を見ても、どれだけブームが凄まじかったかお分かり頂けると思います。

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文庫版最終巻(12)が出る頃、映画第2弾「帝都大戦」が公開されます。

前作の大ヒットで決まったのでしょう。

映画「帝都大戦」は1989年(平成元年)9月15日に公開されます。

原作の「戦争編」を映画化したものです。

折しも「メディアミックス」という新しい手法が話題になっていた頃です。

なんだかあわただしい感じでした。



やはり嶋田久作氏が果たした役割は大きい

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ブームの波が落ち着いた95年、角川書店が「新装版」(文庫)を出します。


【新装版】 
帝都物語第壱番 神霊篇/魔都(バビロン)篇 角川文庫 角川書店 1995.05.25 
帝都物語第弐番 大震災(カタストロフ)篇/龍動篇角川文庫 角川書店 1995.05.25   
帝都物語第参番 魔王篇/戦争(ウォーズ)篇 角川文庫 角川書店 1995.06.25 
帝都物語第四番 大東亜篇/不死鳥篇角川文庫    角川書店 1995.06.25     
帝都物語第伍番 百鬼夜行篇/未来宮篇角川文庫    角川書店 1995.07.25     
帝都物語第六番 喪神篇/復活篇角川文庫    角川書店 1995.07.25 
の6冊です。
これが今でも普通に買える「帝都物語」です。

なお「角川文庫新装版」は時系列順に配列されており、出版と順序が異なります。
魔王篇と不死鳥篇の間に、戦争(ウォーズ)篇、大東亜篇が挿入されたものです。
2冊分を合冊したもので巻数も全6巻です。

こんな本
 

右上に「新装版」と書いてある(初版の一部には入ってないものもあります)。
イラストは田島昭宇さん。

**********<第V期 漸進篇>**************

 

ここから「前日談」「後日談」になっていきます。


「新装版」刊行中に、書き下ろし「帝都物語外伝 機関(からくり)童子」(文庫)がでます。


「帝都物語外伝 機関(からくり)童子」 角川文庫 角川書店 1995.06.25

 

内容は「帝都物語」の後日談で、
「一九九八年、『帝都物語』の魔人加藤保憲を復活させようとするからくり芝居の一団・・・・」(amazonより)
ということで、98年が舞台。




今では書店では入手が難しいようです。
この作品も映画化され95年7月に公開されています。



が、内容が原作と違う、セクシーな描写が多い、などあまり評判はよくなかったようです。

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その2年後、突然、週刊誌「週間文春」で「帝都幻談」の連載がはじまります。

週刊文春1997年5月1・8日合併号から11月27日号にかけて連載されました。
後に大幅に加筆・修正を加えた単行本上巻とその続編である書下ろしの下巻が出ます。

 

「帝都幻談 (上)(下)」<単行本> 文藝春秋 2007.3.29
(文庫版 <文春文庫> 文藝春秋 2011.4.8)


内容は「帝都物語」前日談で、江戸時代が舞台のお話。

 

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「帝都幻談」連載終了から2年、今度は「KADOKAWAミステリ」(角川書店)で連載「新帝都物語」がはじまります。
『KADOKAWAミステリ』1999年11月号から2001年11月号にかけて連載され、単行本化にあたって大幅に加筆修正されてます。

 

「新帝都物語 維新国生み篇」 <B6判> 角川書店 2007.07 
(文庫は2冊分冊 (上)(下) 角川文庫 角川書店 2009.08.25)

 

内容は『帝都物語』の前日談である『帝都幻談』の続編で、幕末期が舞台のお話。 

 

やはり丸尾イラストがしっくりくる。

文庫版はこんな表紙
 
   
イラストは「帝都物語 新装版」と同じ田島昭宇さん。

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「新帝都物語」の連載終了直後、1冊のムック本(「帝都物語」解題本)が出ます。


「帝都物語異録」  <A5判> 原書房 2001.12.15  


共著ですが、荒俣宏書き下ろしの
「帝都物語異録 龍神村木偶茶屋(りゅうじんむらでくぢゃや)」
が収録されています。

加藤保憲の出生に秘密にせまる、明治に入ってからが舞台のお話です。


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現在、ここまでです。

 

wikiには
「帝都物語と木偶茶屋の間にも小笠原諸島を舞台としたシナリオがあるようだが未だに文章化はされていない」
との文言がありますが、以下の京極夏彦氏との対談ででた構想の件だと思われます。
 
京極 「新帝都物語」を読ませていただきました。維新国生み編は続くんですか?

荒俣 あれは・・・・続かないですね。

京極 続かないんだ(笑)

荒俣 でもちょっと間をあけた南北朝の話を、明治期にもってきたいんです。
つまり大げんかになるわけで。南朝、北朝の問題を。明治の人たちが南朝、北朝の亡霊に悩まされるわけですよ。
つまり本当は北朝の天皇なんだけれども、三種の神器をはじめとしてすべては南朝をはじめとしてすべては
南朝にルーツを持つものですから。


京極 すいぶんもめましたからね。

荒俣 大逆事件まで南北朝の問題でもあるわけですから。それで僕が考えたのが小笠原に南朝のグループが
全員行っていたという話にしたい。小笠原貞頼が小笠原を発見したことになっているんです。
「怪」にも取材に行ったときのことを少し書きましたが、江戸幕府が小笠原という名前を使うのを禁じていたんですよ。
無人島とか、辰巳の無人島とか。ところがペリー が小笠島にやってきて、乗っ取られてはまずいということになり、
江戸幕府が勝海舟らをはじめとして交渉させるんです。その時に使った話というのが、それまで自分たちが嘘だと
言っていた小笠原の伝承だったんですよ。小笠原家が秀吉に、おまえたちに与えるお金がないから、
おまえたちが御船手衆で水軍だからちょっと南のほうに島があるらしいからそれを探検してこいと。
そして島を発見したので天皇に認めてもらった。ということをペリーに話したら通っちゃったわけですよ。
その流れが南朝の流れで、その話をぜひ使いたいと思いまして。「怪」の取材が生きているわけですよ。


京極 それはどの媒体にお書きになるんですか。

荒俣 「怪」に書きたいと思います。

京極 おぅ!「怪」に「帝都物語」は合うと思いますネ。「怪」はめったに出ないから(笑)、毎号のボリュームだって
でるじゃないですか。

荒俣 幕末ものは、「帝都幻談」と「新帝都物語」と、それから三部作で、南朝の亡霊の話を書きたいですね。


京極 それは何編ですか。

荒俣 小笠原編ですか。

京極 南朝亡霊編とか

荒俣 まさに南朝亡霊編。いまだに熊沢天皇はじめ亡霊はウジャウジャいますからね。

(ムック「怪」vol.0023 p22)
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単純に物語を時代順に並べると

 

「帝都幻談」(江戸時代)→
「新帝都物語」(幕末)→
「帝都物語 異録」(明治)→
「【新装版】帝都物語1-6」(明治-昭和)→
「帝都物語外伝 機関童子」(20世紀末)

 

でしょうか。

 

冒頭の
「読んでみたいけど・・・何から読めばいいの?」

ですが、以上をわかっていればどれから読んでもいいんだとおもいます。
だけど・・・やっぱり出版順がいいかな。



「【新装版】帝都物語1-6を読む」→

「映画『帝都物語』『帝都大戦』を続けて観る」 →

「なんとか入手して『機関童子』を読む」 →

「映画『帝都物語-外伝』を観る」 →

「帝都幻談」 →

「新帝都物語 維新国生み編」→

「帝都物語異録」

ですかね。

 

派生したコミックス(藤原カムイ、高橋葉介ほか)やDVD等にも 触れるつもりでしたが、ややこしくなるのでまたの機会に。

以上です。-2014.07.30-



<参照>

「アリャマタコリャマタ解体文書」
http://www42.atwiki.jp/aryamatakoryamata/

協力:DOJI-Iサマ


以上。