第四回「世界妖怪会議」開催 4
続いて話しは「妖怪と環境」へ。
京極氏は、自身の北海道・大雪山での体験などを交えトークを展開。
資金面での問題や後継者難で本当の「祭り」が消えつつあることを一同嘆く。
水木「学校でキチンと教えないからいかんのです」
そしていつのまにか話は水木翁が長年構想を持っていた「世界妖怪大全集」へ。
水木「世界の妖怪を集めて形にすると、日本の妖怪がよく解る気がするんです」
荒俣「妖怪の比較研究ですね」
水木「出来れば『世界妖怪大全集』をね、20巻くらいで作って・・・」
京極「水木先生は今まで1800体くらいの妖怪、精霊を書いてますよね。
多田さんが勘定したんですよね」
水木「世界まではなかなか手が回らなくてねえ・・・」
京極「先生、今までそれだけ書いてきて、実際にニューギニアなんかで体験するのと
絵を描くのとではどうですか?」
水木「そうですね・・・ニューギニアなんかで私の絵をみせると、現地の人々が納得するんですね。
だいたい当てはまるんです」
荒俣「今ひとつ盛り上がらないのは、ヨーロッパでは日本的な意味での妖怪は案外とないんですね。
モンスター研究ってのはありますけど。私はヘンな人間に生まれた、とか。
向こうではモンスターは不吉の印として重要視して常にチェックしてるんですけど。
どっちかって言うと、死者や幽霊なんかには行きましたけどね・・」
水木「妖怪ってのは日本で独特の発達をとげたのかな」
京極「妖怪っていう名前についても、そう呼んじゃってイイのかな、っていうのもあるんです。
自然現象から天狗から、器物の霊からマッドメンまで我々は妖怪って言っちゃってますけど。
精霊とか妖精とかいろんな呼び名はあるんだけれども、妖怪ってそれらを含めた概念として
機能しちゃってますよね。総括する意味では妖怪という呼び名しかないのかなと言う気も
逆にしてはいるんですが」
水木「妖怪は日本で発達してきたんですね」
荒俣「妖怪は非日常にいながら日常に絡んでくるんですね。豆腐小僧なんかそうなんですが。
日常に相当食い込んでいないと、なかなか残らないんですね」
京極「妖怪が生きながらえてきたのは水木サンのおかげですよね」
水木「でもノーベル賞はまだ来ないんです・・・・(笑)」
京極「研究家も増えましたよね」
水木「(話の流れもおかまいなしに)で、エスキモーやら何やら全部集めると(世界妖怪大全集は)
20巻から30巻くらいになると思うんです」
荒俣「以前なら難しかったかもしれませんけど、今ならできるかもしれませんね」
京極「確かに、この会議にこんなに人が集まっているくらいですからね(笑)。
水木サンみたいな人が世界中にいてくれたらいいんですけどね」
水木「西洋の人であまり真面目に研究しておる人はいないんですね。なんかバカにしてやっておる
というか・・・・水木サンほど熱心じゃないんですな・・・・」
ここから流れは「妖怪の危機」について広がる。今や妖怪も絶滅の危機にさらされているのである。
京極「多田さんは全国幅広くフィールドワークをしておられますが、
国内でもやっぱり危ないんですか?」
多田「あのー、河童の伝説のある場所なんかも、工事でじゃまだからダイナマイトで破壊
されちゃったりしてますね。なくなっていっちゃうモノもあるんですね」
荒俣「そうするとノーベルは妖怪も駆逐しちゃってるんですね(笑)」
水木「河童なんかは、我々のころはおばあさんなんかはよく詳しかったけど・・・」
多田「去年の熊野の会議の時に・・河童の石碑があるんですけど、ほとんど、地元の人も
知らないんですね」
京極「こんなにブームなのに、この現状ですからね」
水木「そういうおばあさんが居なくなったら・・・・学校じゃ教えないしね」
荒俣「それは『妖怪協会』としてはぜひやらなきゃいけませんね」
水木「いち個人がやってたってどうしょうもないから、大臣なんかが号令かけてくれないと・・(笑)」
荒俣「どの大臣にします」
京極「環境庁?・・・・厚生省?・・・・(笑)。
『妖怪協会』としては、妖怪教育の必要性と絶滅妖怪を保護するという2つのスローガンが
今出来まして、珍しく過去の妖怪会議に比べると結論めいたモノがでましたね(笑)」
荒俣「もの凄い結論になっちゃうね」
京極「使命が重すぎて・・。妖怪教育なんかを始めちゃいますと、多田先生なんかは全国の小学校や
中学校を・・」
荒俣「“妖怪のおじさん”として回らなくちゃいけないね(笑)」
宮部「創作物語を書き続けるっていう事も大切ですよね。いろんな情報を求めるってのも、埋もれてる
情報ををね・・・」
荒俣「ほんとにそうですね。作家の仕事も、水木先生の仕事もそうなんですが。今ブームの安倍晴明
のね、晴明神社の宮司の方が、本当は晴明神社はなくなってたんですよ、っていうんです。
明治の頃に、怪しい神社は全部つぶしてしまえって事になって。
うちが助かったのは歌舞伎に安倍晴明が出てくるんで、歌舞伎にもでてくるんですからどうか
許して下さい、っていう事で助かったそうです。
文学や漫画の力ってあるんですよね」
ここで両脇で座っていた精霊2人がスッくと立ち上がり、水木翁を連れ去る。
京極「どうやらお化けが迎えにきた様です」
京極「水木先生がお化けの世界にお帰りになっちゃったもんで・・・・やはり結論めいたモノが
出ないまま、この辺で今回の第四会世界妖怪会議を締めたいと思います。
ご拝聴、どうもありがとうございました」
満場の拍手。
おしまい。
会議は約90分で終了。
ややモノ足りなさも残りましたが、初の生アラマタに加え、生水木・生京極・生多田・生宮部まで
拝めて感動致しました。
会議ですが、京極氏のおっしゃる通りでまさに「水木翁を囲む会」という感じ。
誰にでも楽しめるものではないしょうが、その手の方々にはこたえられないモノです。
今回は「交通アクセスの良い場所で開催して欲しい」との要望に応えての東京大会だった様ですが、
次回からは各妖怪の生息地で開催する、なんてのはどうでしょう。
毎回場所を変えての開催は大変(参加する方にとっても)かもしれませんが、雰囲気は出るし、
テーマも絞りやすいし、何より各地の妖怪保存に多少なりとも貢献できるのでは、などと
思ったりします。